① 需要曲線と供給曲線が交わる点の価格を均衡価格という。通常がこれよりも高いと供給は超過供給の状態にあり、価格がこの交点の価格よりも低いと需要は超過需要の状態にある。 ②同じ商品が場所によって価格に大きなばらつきがあるとき、価格の安いところ から高い所に商品が流れることによって価格は均一化の方向に向かう。 これを一物一価の法則という。 ③生産量が増えると価格が大幅に下がって生産者がかえって損をする現象を豊作貧乏 と呼ぶ。 こうした現象が起こるのは需要が価格に対して非弾力的な場合である ※各自で今一度第1章を熟読し、復習してください I需要曲線とは この章では、 第1章で説明した需要曲線についてもう少しくわしく説明したいと思います。 価格と需要 図2-1 には、標準的な需要曲線が描いてあります。 需要曲線とは、ある財の 価格とその財に対する需要量の間の関係を図に示したものです。 需要曲線は通常右下がりになっていますが、これは価格が下がれば需要量が増えるという関係を示しているわけです。 需要曲線を式の形で表わすなら X=D(p) となります。Xは需要量でpは価格です。 つまり、 需要量 Xは価格の関数として決まるというわけです。 たとえば、 図2-1 では、価格が なら需要量はX」 であり、 それよりも低い価格であれば、需要量は X2 まで増えるということが読み取れます。 第1章でとりあげた例からもわかるように、 経済問題において需要曲線の傾きの大きさが問題になります。 図2-1では、p1からp2 まで価格が低下したとき、需要量は X」 から X2 まで増加していますが、この価格の変化と需要量の変化の相対的な大きさ、つまり変化率が重要になるのです。 価格の変化に対して需要量が大きく変化するとき、そのような需要曲線を価格に対して弾力的な需要曲線といいます。 つまり、需要量が価格に敏感に反応するのです。この場合には、需要曲線は傾きがなだらかになります。 これに対して、価格の変化に対して需要量の変化の程度が小さいとき、 そのような需要曲線は価格に対して非弾力的な需要曲線といいます。 つまり需要量が価格変化に対してあまり敏感に反応しないのです。このような場合には、需要曲線は傾きが急になります。図2-2には、価格に対して弾力的な需要曲線と価格に対して非弾力的な需要曲線を描いてありますので、これらを比べてみてください。 第1章の例でも説明したことですが、 需要がどれだけ価格弾力的であるかは、その財やサービスの性格に依存します。 米や味噌のような必需品であれば、価格が多少変化しても需要量にそう大きな変化があるはずはありませんので、これらの商品の需要は価格に対して非弾力的であるはずです。 つまり需要曲線の傾きは急になるはずです。海外旅行のように奢侈品的な性格が強いものは、需要は価格に対して弾力的であると考えられます。 海外旅行の料金が低下すれば旅行者数も大幅に増えると思われますので、 需要曲線の傾きもなだらかになるはずです。 需要と収入 需要の価格弾力性は、 売り手の収入や買い手の支出の金額が価格や需要量の 変化とともにどのように変化するかをみるときに役に立ちます。 この点について、いくつか例をあげて説明しましょう。 図2-3の曲線Dのような需要曲線を考えてみましょう。 たとえばこれは石油の需要曲線であり、縦軸には石油価格、横軸には石油に対する需要量がとってあるとしてみましょう。需要曲線の上では、価格や需要量以外のものを読み取ることができます。供給側から見れば収入であり、需要側から見れば支出です。 需要曲線の縦軸にとられた価格に、横軸にとられた需要量をかけると、 買い手が需要のために支払った金額、つまり支出額を表わしていることがわかるでしょう。 これは売り手からみれば、収入額ということになります。 白色で示した長方形を見てください。 これは、石油の価格がpそしてそのときの石油の需要量が Xである場合の石油への総支出額 (総需要額)を表わしています。総支出額は、 価格 (財1単位に対してなされる支出)に需要量をかけたものですので、図の白い部分の面積(=価格×需要量)が支出額となります。この支出額の動きは、いくつかの経済問題を考えるさいに重要となります。 例1:石油ショックと日本の石油輸入額 石油輸出国の供給量制限によって石油の価格が上昇したとき、日本の石油輸入額はどのように変化するのでしょうか。 輸入額は、価格に輸入量をかけたものですので、石油の輸入額=石油の価格×石油の輸入量というように表わすことができます。 石油の価格が高くなれば、 石油の輸入量は減少すると考えられますので、輸入量の動きは図2-4に示した矢印のようになります。石油の輸入額は、石油価格の上昇の結果、かえって増大することがありえます。 図のケースに示されているように、価格が上昇しても輸入量がわずかしか減少しなければ、価格上昇の効果が輸入量低下の効果よりも大きく、 輸入額は増大します。これに対して、 ケース [2] のように、価格の上昇により輸入量が大幅に減少すれば、輸入額も減少します。 このように、 石油価格の上昇によって日本の輸入額が増大するか減少するかは、 石油に対する需要量が価格にどの程度敏感に反応するかに依存することがわかります。 図2-5 は、以上の点を需要曲線を用いて説明したものです。 左の図工は、需要量が価格変化にあまり反応しない場合を表わしています。 この図のように、 需要の価格弾力性が小さいときには、価格の低下 (上昇)に対して、需要量はあまり反応しません。図2-2は、需要の価格弾力性が大きい状況を表わしています。 図2-5 において、 石油価格がp2からp1へと上昇したと考えてみましょう。 これによって、 石油の需要量は X2 から Xへと低下し、 石油の輸入額 (すなわち石油への支出額) は、 長方形 OGEA から OFCB へと変わります。 価格上昇の結果、図工では輸入額は増大し、 図2 では減少します。 これは、すでに図2-4 で確認したことと同じ結果であることはいうまでもないでしょう。 1970年代の石油ショックのときの日本の石油輸入額や経常収支の動きを調べてみると、 石油価格が上昇した直後には石油の輸入額は大幅に増加し、 経常収支も巨額の赤字になっています。 しかし、 数年後には輸入 「量」 の調整が行なわれ、 日本の経常収支はかえって黒字の方向に転換しました。 このような動きは、上で展開した議論によって理解することが可能です。 図2-5において、 図1は短期の石油への需要曲線、 図2は中長期の需要曲線と解釈することができます。 石油の価格が変化しても、短期的には、石油輸入 量はあまり変化しないでしょう。 たとえば石油を用いて精錬を行なっている製 鉄所にとって、石油の価格が高くなったからといって、 つぎの日から石炭により精錬に切り替えることはできません。短期における調整のむずかしさを反映して、 短期の石油需要は、価格にほとんど反応しないと考えられます。したがって、 価格が上昇すれば、それに応じて輸入額も増大します。石油は日本の輸入のなかで大きなシェアを占めていますので、日本の経常収支も大幅な赤字を示すことになります。 これに対して、ある程度の時間が与えられれば、経済は石油価格の上昇に対応することができるわけです。 したがって、 中長期の石油への需要曲線は、図2-5の図のような形状をしていると考えてよいでしょう。 このような需要曲線のもとでは、価格上昇が大幅な需要の減少をもたらしますので、輸入額はそれほど増加しないか、あるいは減少することさえあります。 例2 農作貧乏 第1章でとりあげた豊作貧乏の現象も、需要の価格弾力性の概念が関わっています。 気候がよくて野菜が豊作になると、 価格が暴落して農家の収入がかえって減ってしまう現象を豊作貧乏と呼びます。 図2-5をもう一度見てください。 いま、ある野菜(たとえば白菜)の需要曲線が図工のDD曲線のような形状をしていたとしましょう。ここで、もし白菜の収穫量が前年のX」の水準から今年はX2の水準まで上昇したとしたら、農家の収入はどうなるでしょうか。価格はp1からp2まで下がりますので、農家の収入(消費者の白菜への支出額)は、 長方形 OFCB から OGEA へと減少することが読み取れます。 このような豊作貧乏が起こるのは、 図工のように、人々の需要量が価格にあまり反応しないケースに限られます。 需要量が価格にあまり反応しない場合には、 X1 から X2 への供給増を需要に吸収させるため、価格が大幅に下がらなければなりません。 したがって、収穫量の増大幅 (線分FG) よりも価格の下落幅(線分 BA) のほうが大きく、農家の収入は減少してしまいます。 もし需要が図[2]のように価格に敏感に反応するのであれば、収穫量の増加があっても、価格はそれほど下落しません (線分 FGのほうが、線分 BA より大きいことに注意してください)。 したがって、 豊作貧乏は、この場合には起こりません。 例3: 価格差別の理論 -ダンピングの一側面 映画館などでは、子供と大人には異なった料金が課されます。 なぜ、 料金に差をつけるのでしょうか。 この点についても、 図2-5 を用いて説明することができます。一般的に、 大人の映画に対する需要は図口のDD曲線のような形状をしていて、子供の映画に対する需要は図2のDD 曲線のような形状をしていると考えられます。 なぜでしょうか。 大人の需要は、子供のそれに比べて、価格に大きく影響されないと考えられます。 いくら入場料金が安くても、興味のない映画を観にいく大人は少ないでしょうし、ぜひ観たいと思う映画は、高い入場料を出しても観ようとするでしょう。 したがって、大人の映画に対する需要は、価格にそれほど左右されないと考えられます。これに対して、子供の場合には、金銭的制約が大きく、 入場料の水準は需要に大きな影響を及ぼすでしょう。 映画の内容にもよりますが、 料金を低く設定すれば、多くの子供をひきつけることができるでしょうし、 料金をあまり高くすると、子供の入場者数は非常に少なくなるでしょう。さて、以上のような状況で、子供と大人の入場料はどのように設定されるのでしょうか。まず子供の入場料ですが、 これは比較的低く設定されます。 子供の入場者数は価格に敏感ですので、価格を多少低く設定して入場者数を増やすのは、興行主の利益にかなうからです。 すなわち、ここでは 「薄利多売」 のメカニズムが働いています。 他方、大人の入場料を低くすることは意味がありま入場料を上げても大人の入場者数はそれほど減らないので、興行主は大人の入場料を高めに設定しようとします。このように、大人と子供の入場料に差をつけるのは、両者の需要曲線の違いを考えれば、理にかなっていると考えられます。 経済理論では、このような価格設定を価格差別と呼びます。 価格差別の理論の応用例は多数あります。 たとえば、ダンピングと呼ばれる現象は、価格差別の理論から説明することもできます。自国と外国の両方で自動車を売っている企業を考えてみましょう。 自国では消費者のブランド選好(ホンダ派、トヨタ派など)が強くて、需要量は価格にあまり反応しないとします (図 2-5の図工)。 一方、外国ではブランドはそれほど大きな意味を持たず、車の価格が需要量の大きな決定要因であるとします(図2-5の図[2])。各社の車の品質にそれほど差がないとすれば、他社よりも低い価格をつけた車に需要が集中します。 その意味で、外国での車の需要量は、価格に敏感であると思われます。 このような場合に、自国で高い価格を、外国で低い価格を設定することは、利潤追求にかなっています。 これは、ダンピングと呼ばれる現象の一形態にほかなりません。売り手が価格を思い切って下げるのは、そうすれば需要量が大幅に増える場合です。需要の価格弾力性が大きい市場ほど、価格は低く設定される可能性があります。価格差別の理論の応用例をもうひとつだけあげておきましょう。映画や小説の世界では、慈悲深い医者は金持ちから高い診療費をとって、貧しい人の診療費を安くします。 ところが、これは価格差別の理論の観点からは、利潤を高める行為でもあります。金持ちの医療への需要は、診療費にあまり左右されないでしょうし、貧乏な人々の医療への需要は診療費に敏感に反応するでしょう。 したがって、 金持ちに高い診療費を請求するのは、利潤最大化となんら矛盾しません。 医者のなかには、利潤動機からこのような価格差別をする人もいるかもしれません。 しかし、そのような動機から行なわれる価格差別であっても、 結果的には貧乏な人々の利益となっています。 需要曲線のシフト 第1章でとりあげたクレープの需要曲線を例にあげて説明しましょう。 一般に、クレープの需要はさまざまな要因に依存するはずです。 クレープの価格をはじめとして、そのときの天候 (寒暖や空模様)、 代替的な財の価格 (たとえばたこ焼きやドーナツの値段) などが変化すれば、クレープの需要も変化するでしょう。 これを需要関数という式の形で表わすなら、X=D(p, p*, y, w,...)となります。 ただし、Xは需要量、 はその財 (クレープ) の価格、 はそれと競合する財(たこ焼きやドーナツ) の価格、 yはその地域の所得水準、w は天候の状態を表わす変数であるとします。 関数D (.,.,.,.,・・・) は需要関数で、需要がいろいろな変数によって決まることを表わしています。 需要関数のなかに「・・・」とあるのは、ここにとりあげたもののほかにも需要に影響を及ぼす変数があるかもしれないからです。このような複雑な需要関数をグラフに描くことはできません。 しかし、我々の分析の主要な関心は、 需要量と価格の関係であり、それ以外の変数にはとりあえず関心がありません。 したがって、 それ以外の変数(p, y, w など)はとりあえず変化しないものとして扱うことにします。 このような扱いを受ける変数を 外生変数と呼びます。 外生変数とは、ここで考察している範囲外で決まってしまっている変数のことです。 クレープの需要について考えるとき、所得や天候がどのように決まるかということはとりあえず問題にしないで、所得や天候がどのような状態にあるかということをあらかじめ与件 (外生的なもの)として扱うのです。これに対して、価格pや需要量 X を内生変数と呼びます。 内生変数とは、考察の対象となっている経済モデルのなかでその動きが分析の対象となる変数のことです。 需要曲線とは、 外生変数をすべて与件 (一定の値) とおいて、 内生変数である価格と需要量の間の関係を描いたものです* 「価格が下がれば需要量が増加する」いう記述は、この需要曲線上の動きとして表わされるのです。ところが、「所得が高くなってクレープの需要が増える」 とか 「天候によってクレープの需要が変化する」 といったことは、需要曲線のシフトとして表わされます。外生変数である所得 (y)や天候 (w) が変化すれば、それによって需要曲線の位置も変化(シフト) するのです。所得が増えたり寒くなってクレープの需要が増えれば、需要曲線は右側 (需要を増やす方向)にシフトするはずです。 これに対して、 需要を減らすような外生変数の変化は、 需要曲線を左側にシフトさせます。 図2-6は、以上で述べたことを図にまとめたものです。 需要曲線上の動きと需要曲線そのものの移動 (シフト)は、きちんと区別しなくてはいけません。 Ⅱ需要曲線と消費者余剰 需要曲線の分解 これまで需要曲線と呼んできたものは、経済全体としてみたときの、ある商品に対する価格と需要量の関係でした。 このような需要曲線は、 個々人の需要行動から生み出されるものです。 図2-7 は、 この点を簡単な例を用いて説明したものです。この社会には太郎と花子の2人だけしかいないとします。 図のDD と D'D*は、ある商品に対する太郎と花子の需要曲線を表わしています。 いちばん右端にあるD+D* と表示してある曲線は、 太郎と花子の需要曲線を水平方向に足し合わせたものです。水平方向に足し合わせるということは、つぎのような操作のことです。 たとえば、価格があると、 太郎の需要量は X1、 花子のそれは X」* となりますが 太郎と花子の需要量を足し合わせた X1+X」*がいちばん右のグラフにとられています。 P2の価格のところでも同じ操作が表示されていますので、確認してください。 このように、経済全体としての需要曲線は、 その社会を構成する個々人の需要量を水平方向に足し合わせたものと考えることができます。 図2-7の例では2人しかいませんが、 この操作は何人いたとしても基本的には同じです。 需要と効用 人々が商品を需要するのは、その商品を消費することによって幸福感を感ずるからです。 消費に対するこのような見方はあまりに素朴であるという批判もあるでしょうが、ここではとりあえずこのような立場に立つことにします。 経済学では、このような消費の喜びを、 効用 (utility) と呼びます。効用とは、はなはだ曖昧な概念です。 喜びの程度を数値で表示することは不可能ではないかと思われます。 しかし、 経済学ではしばしば効用が金銭単位で表わされ、それがおおいに有効性を発揮しています。 以下では、この点について簡単に説明してみたいと思います。 図2-8 は、 1週間ベースで見た太郎のビールへの需要量を表わしています。この図はつぎのように読みます。もしビールの価格が1400円を超えて2000円以下であれば、太郎は1週間にビールを1本飲むでしょう。もし、価格が1000円から 1400円の間であれば、太郎は2本飲もうとするでしょう。700円から1000円の間なら3本となっています。 図2-8が、 通常の需要曲線とちがって、棒グラフ状になっているのは、ビールは1本単位でしか消費できないからです。ビールをいくらでも細かい単位で買えるなら、需要曲線も滑らかな右下がりの曲線となります。この需要曲線は、つぎのように読むこともできます。 太郎は、ビール1本に対して最高2000円まで出してもよいと思っているのですから、1週間に1本このビールを飲むことの喜びは、太郎にとって2000円の価値があります。 すなわち、太郎にとってのビール1本の効用を金銭価値で表わすと2000円になります。 では、ビール2本の効用はどれくらいになるのでしょうか。 2本目のビールに対しては1400円まで出す気持ちがありますので、2本のビールに対しては合計 3400円 2000円 +1400円) の評価をしています。 同じようにして、 ビール3本には4400円 4本には5100円という評価がなされていることがわかります。 このように、個々人の需要曲線は、 価格と需要量の関係を表わしているだけではなく、その人がその商品に対してどのような評価をしているかも表わしています。 しかも、この評価が金銭単位であるため、それなりの客観性を持った評価ということになります。 消費者余剰 さて、図2-8 に戻って、 ビールの価格が300円であったとしてみましょう。 このとき、太郎はビールを5本まで買おうとするでしょう。 これは、図から容易に確認できると思います。 上で述べた方法で計算すると、 5本のビールを飲むことは、 太郎にとって 5500円 (=2000+1400 + 1000 +700+400)の価値が円 (=300×5) です。 両者の差額をとると4000円という数字が導出されますとこれが消費者余剰 (consumer's surplus)と呼ばれるものです。(図の薄い部分です。) 消費者余剰とはつぎのようなものを表わしています。 ビール1本300円のとき彼の評価は実際には5500円です。 したがって、 太郎はこのような需要行動をとることで、4000円だけ得をしたことになります。 消費者余剰とは、支払う 意思はあるが支払わないですんだという意味での、需要行動を通じた消費者の利益を表わしたものです。 以上の点を確認する意味で、 つぎのようなことを考えてみてください。 いま、太郎の住んでいる町には酒屋が1軒しかなく、しかもつぎのような価格設定をしているとしましょう。ビールは5本まとめてしか買うことができずしかも5本まとめての値段は5400円という価格設定です (このような販売方法を「抱き合わせ販売」といいます)。このとき、 太郎はビールを買うでしょうか。 太郎にとっての選択の可能性は二つしかありません。 ビールを買わない か、それとも5400円出してビールを5本買うかです。 図2-8の場合には、太郎は5本のビールを買うという選択をするでしょう。 このような状況と比べると、ビールを1本単位で売ってくれてしかも1本の価格が300円であるというのは、 太郎にとってずいぶん都合のよいことです。消費者余剰とは、 このような好都合な市場価格のもとで、 太郎が獲得することのできる利益を表現したものと考えることができます。 消費者余剰の額は、ビールの価格が低くなるほど大きくなります。 この点を確認するために、ビールの価格が1000円のときと、 100円のときの消費者余剰の金額を計算してみてください。 また、外で食事をしたときにレストランでの自分の消費者余剰はどれくらいか考えてみてください。 市場需要と消費者余剰 以上では消費者余剰の考え方を、個人の需要曲線で説明しましたが、消費者 余剰は社会全体としての需要(市場需要)の上でも考えることができます。この点を、 図2-7 に戻って説明しましょう。 図 2-7 の左側二つのグラフの白い部分は、価格がりであるときの太郎と花子の消費者余剰を表わしています。いちばん右側のグラフの白い部分は、市場需要(太郎 + 花子)D + D* について同じようにして消費者余剰を求めたものです。すでに説明したように、D+D* は、太郎と花子の需要曲線を水平方向に足し合わせたものです。 したがって、いちばん右側の白い部分の面積は、左側二つのグラフの白い部分の面積を足し合わせたものに等しくなっているはずです。 また、外で食事をしたときに、レストランでの自分の消費者余剰はこのように、市場全体の需要曲線から導かれた消費者余剰の大きさは、その需要を構成している個々人の消費者余剰を足し合わせたものとなっています。上の例では、太郎と花子の2人しかいないケースを考えていますが、 社会に何人いても同じような議論が展開できるのは明らかでしょう。 消費者余剰は、各消費者の効用を金銭価値という共通の指標で足し合わせたものとなっています。 別のケースでの確認 以上で述べた点、つまり、社会全体の需要曲線から求められる消費者余剰が個々人の評価(金銭的評価)の和になっていることを確認するために、次の商品を考えてください。 たとえば、小澤征爾指揮ボストン交響楽団のマーラーの交響曲第一番 「巨人」のCD (コンパクトディスク)の需要を考えてみましょう。この商品に対する需要曲線は、通常、 図2-1 のような右下がりの形をしていると考えられます。 つまり、価格が安ければ、需要も大きくなるはずです。 ところが、個々の消費者の需要曲線は、少し形をしています。CDを2枚買う人がいないからです。 図2-9 は、太郎、次郎、三郎の3人の、このCDに対する需要曲線を、経済全体の需要曲線に対応させて描いたものです。 太郎は小澤征爾のマーラーが大好きなので、5000円出してもこのCDを買いたいと考えていますが、2枚以上買う気はありません。 したがって、太郎の需要曲線は、図に示したように、高さが5000円、 1の長方形となります。 次郎のこの CD に対す評価を3000円、三郎の評価を1500円とすると、次郎と三郎の需要曲線も、図に示したようになります。 さて、このCDが2000円で売られていたとすると、太郎と次郎は購入しますが、三郎は購入しないでしょう。 購入する2人の消費者余剰は、図のうすい赤の部分で示してあります。図2-9の左側の図に描いた社会全体のCDに対する需要は、このような個々の消費者の長方形の需要を足し合わせたものです。 この需要曲線上の太郎、次郎、三郎の位置が確認できるでしょう。もちろん、この需要曲線の背後には、この3人以外に多数の人がいます。このような社会全体の需要曲線の上で求められる消費者余剰は、この商品を購入する個々の消費者の消費者余剰 (評価から支払った金額を引いたもの)の和になっていることは容易に確認できると思います。 需要と効用最大化 消費者が合理的であるならば、消費の喜びを最大にするような需要行動をとるはずです。これは、ミクロ経済学のもっとも基本的な考え方です。 ここで需要曲線を用いてこの点について簡単に説明しておきましょう(以下の説明では、 図2-8 を用います)。 図2-8 では、ビールの価格が300円であるとき、ビールを5本購入するということが示されています。 そして、そのときの消費者余剰は4000円でした。じつは、価格が300円のとき、 太郎はビールを5本購入することで、消費者余剰を最大化しています。 この点を確認するために、たとえば、ビールを4本購入したときの消費者余剰を計算してみましょう。 ビールを4本飲むことは、太郎にとって5100( = 2000+1400+1000+700) 円の価値があります。 これに対して、ビール4本分の代金は1200円ですから、このときの消費者余剰は3900円となります。同じ方法によって、6本購入するときの消費者余剰も3900円、3本のときのそれは3500円と計算することができます。 結局、価格が300円のときには、5本購入するのがもっとも大きな消費者余剰をもたらすことが確認できます。消費者は、みずからの消費者余剰を最大にするように行動しています。需要曲線と価格によって決定される需要量は、このような消費者余剰の最大化を実現するものとなっています。 以上の点は、追加的消費に対する便益と費用という観点から理解することも可能です。 図2-8 において、1本目のビールは、太郎にとって2000円の価値があります。 当然、彼は300円支払ってビールを購入するでしょう。 2本目のビール(ただしビールを1本すでに買うと決心したあとの2本目)は、1400円の価値があります。これもビールの価格 (300円)以上ですので、彼は購入するはずです。このように順次購入量を増やしていくと、5本目は400円、6本目は200円の評価がなされていることが読み取れます。 ビールの価格が300円ですから、5本目まで購入するのが、太郎にとってもっとも望ましいことがわかると思います。追加的に財の購入量を増やすことに対する消費者の評価のことを、その財に対する限界 (的) 評価、あるいは(金銭単位で表わした) 限界効用と呼びまます。太郎は、限界的評価が価格を上回っている限りは購入量を増大し、前者が者よりも低くなる直前のところまで購入します。 そこで彼の消費者余剰が最犬になっているのは、説明するまでもないでしょう。 以上の議論から、需要曲線には二つの読み方ができることがわかったと思います。 図2-10 は、この点を滑らかな需要曲線上で示したものです。 まず、 通常の読み方ですが、これは縦軸から横軸の方向に読む方法です。たとえば、価格が縦軸上にとられたかの水準にあるとすると、そのときの需要量は横軸上のみであるというのがこの読み方です。 これに対して、 横軸から縦軸に向かって読むと、つぎのようになります。 たとえば需要量 (消費量) が横軸上に示されたXの水準にあると、そこでのこの財に対しての限界的評価はであると。 後者のような需要曲線の読み方は、以下で展開されるいろいろな議論において頻繁に用いられます。 【専門用語解説】 石油ショック(オイルショック)→、石油輸出国機構(OPEC)による原油価格の引き上げや供給制限によって、世界経済に大きな影響を与えた出来事。1970年代に2度発生し、特に1973年の第一次オイルショックと1979年の第二次オイルショックは、世界経済に深刻な不況をもたらした。 ダンピング→主に貿易において、ある国が自国の市場よりも低い価格で商品を外国に輸出する行為を指す。これは、不当廉売とも呼ばれ、国内産業に損害を与える可能性があるため、国際貿易において問題視されることがある。 需要関数→財やサービスの価格、所得、関連財の価格などの要因が、その財やサービスの需要量にどのように影響するかを表す関数 外生変数→経済学や計量経済学のモデルにおいて、そのモデルの外部から与えられ、モデル内で説明されない変数のこと 内生変数→経済モデルや統計モデルの中で、そのモデルの中で値が決定される変数。一方、モデルの外で値が決定される変数は外生変数と呼ばれる 抱き合わせ販売→ある商品やサービスを販売する際に、他の商品やサービスも一緒に購入させることを条件とする取引方法。需要のある人気商品と、需要の少ない不人気商品を抱き合わせることで、不人気商品の販売促進を図る手法として用いられることがある。しかし、消費者の選択の自由を制限し、不当に不利益を与える場合があるため、独占禁止法で規制されている。 消費者余剰→消費者が財やサービスを購入する際に、実際に支払った金額よりも多くのお金を支払っても良いと考えている金額 マーラー→グスタフ・マーラー。主にオーストリアのウィーンで活躍した作曲家、指揮者。交響曲と歌曲の大家として知られる。 限界効用→財やサービスの追加的な消費によって得られる満足度(効用)の増加分 小澤征爾→「世界の小澤」でお馴染み日本の男性指揮者。1973年からボストン交響楽団の音楽監督を29年間務め、2002年 - 2003年のシーズンから2009年 - 2010年のシーズンまでウィーン国立歌劇場音楽監督を務めた。俳優である小澤征悦氏の父親としても知られている。 【議論点】 現在問題になっているコメ価格高騰について、多くの国民が消費している「銘柄米」の均衡価格はいくらが妥当と言えるだろうか?第1章・第2章の内容を踏まえたうえで議論せよ。 参考文献 Wikipedia「オイルショック」 https://ja.wikipedia.org/wiki/ 税関「不当廉売」 https://www.customs.go.jp/t imidas「ダンピング」 https://imidas.jp/ichisenkin Wikipedia「需要関数」 https://ja.wikipedia.org 一般社団法人グーロバル都市経営会 「需要関数の導出」 https://ai-colab.com/2019/05/05/ 西南学院大学 「外生変数と内生変数」 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https:// S-stat 「内生変数」 https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/90/00/3986 コトバンク 「内生変数」 https://kotobank.jp/word Business&LAW 「抱き合わせ販売」 https://businessandlaw.jp/articles/a20250508-1/ Wikipedia「グスタフ・マーラー」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC Wikipedia「小澤征爾」 https://ja.wikipedia.org/wiki/ 瞬時にわかる経済学 「消費者余剰」 https://wakarueconomics.com/
入門経済学 第2章
英進党
「不自由なき世界を築く!」をコンセプトに、全ての人権問題に立ち向かう政党です。
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