入門経済学 第1章

I 需要·供給分析 黄金のクロス 経済学の教科書を開くと、必ず右下がりと右上がりの曲線が交わる図が見つかります。これは需要曲線と供給曲線です。この二つの曲線を使った分析はとても広く使われていて、ほとんどの経済の問題に関わっています。需要供給曲線は経済学にとって一番大事な分析の道具で、「黄金のクロス」とも言えます。経済学は需要と供給から始まり、またそれで終わると言ってもいいでしょう。たとえば、大根の価格や生産・消費を考えるときは、大根の需要曲線と供給曲線を使います。賃金や失業の問題を考えるときは、労働の需要曲線と供給曲線を使います。他にも、為替レートを分析するための外国通貨の需要供給曲線や、利子率を調べるための資金に関する需要供給曲線もあります。 図1-1に示されているように、需要曲線と供給曲線はシンプルな形をしています。縦の軸には価格が、横の軸には需要量と供給量が表示されています。多くの人はこの図を見たことがあると思いますが、具体的な商品を考えながらこの図を簡単に説明してみましょう。図1-1は東京のクレープの需要と供給を示しています。縦の軸にはクレープの価格、横の軸にはクレープの需要量と供給量があります。需要曲線は右下がりになっていて、これはクレープの価格が下がると需要が増えるからです。もしクレープが500円や1000円もしたら、買う人は少なくなるでしょう。でも、1枚数十円なら、もっと多くの人が買うでしょう。需要曲線はこの関係を示しています。例えば、クレープの価格が400円のとき、需要は2000枚です。縦の400円のところから水平線を引いて、需要曲線と交わる横の座標を見れば2000枚とわかります。同じように、価格が200円のときは需要が1万枚、100円のときは1万8000枚になります。価格が低いほど需要が増えることがわかります。供給曲線は通常、右上がりの形をしています。これは価格が高くなると供給も増えるからです。もしクレープが高く売れるなら、売る人も増えるでしょう。逆に、値段が安いと売る人は少なくなるでしょう。供給曲線はこのような関係を示しています。 需要と供給の一致 図1-1 のような需要 供給曲線のグラフで、二つの曲線の交点(図では点 E)は重要な意味を持っています。 この点で、 需給が一致するからです。 この需給の一致点について少し説明してみましょう。 もしクレープの価格が1枚200円であれば、クレープの需要も供給もちょう ど1万枚になり、需給が一致します。 このように需要と供給を一致させる点 (図の点E)を均衡点と呼びます。 また、需給の一致をもたらすような価格を均衡価格と呼びます (ここでは200円)。 このような状態に均衡という名称をつけるのは、現実の経済のクレープの価格や需給が最終的に落ち着く点が、この均衡点で表わされる状況に近いものであると考えるからです。 かりに、クレープの価格が400円と高いものであったらどうなるでしょう か。 このグラフでは需要はわずかに2000枚なのに、 供給は2万枚にもなってしまいます。 つまり、価格が高すぎれば、供給ばかり多くて、売れ残りが出てしまいます。 このような状態を超過供給と呼びます。 超過供給の状態は長つづきしません。価格は下がるでしょう。 逆に、クレープの価格が100円と非常に安ければ、今度は需要が1万8000枚もあるのに、供給はわずかに6000枚にしかなりません。 つまり、 クレープを買いたくても買えない人が大量に出てしまいます。 このような状態を超過需要と呼びます。 超過需要の状態も長つづきせず、価格は引き上げられるでしょ う。結局、価格が均衡価格である200円より高くても低くても、需要と供給のバランスがとれません。 需要と供給が一致するように、価格が調整されるはずです。 超過需要があるときは価格が上昇し、 超過供給があるときは価格が低下します。 このような価格の調整機能が働くなら、 クレープの価格は均衡価格に落ちつくはずです。 需要供給分析では、このような調整メカニズムを前提として、均衡点にスポットを当てた分析を行ないます。 これまでの説明を読んで、つぎのような不満を持つ読者がたくさんいると思います。 「東京のクレープ屋が同じ価格をつけていることになっているが、 現実には価格に相当なばらつきがある」、 「均衡価格がつけばクレープの需要と供給が一致するとあるが、 実際にはクレープを買いたくても売りに来なかったり 売れ残りを抱える店があったりする」 「クレープの価格はそれぞれのクレープ屋がつけるはずなのに、ここの議論ではクレープの価格はだれがつけているのかよくわからない」 などの不満です。 これらの不満は、どれももっともなものです。 ミクロ経済学についてより深く学んでもらえば、これらの点について、より満足のいく理解が得られるでしょう。ただ、つぎの点を強調する必要があります。経済理論は、現実の経済現象をできるだけ単純な形で表現し分析するためのものです。 経済現象の本質をとらえるためには、「一筆書き」で描いた経済の単純な絵が必要になります。 需要供給曲線とはそのようなものです。 現実の世界では、店や屋台によってクレープの価格は違うかもしれません。 しかし、そのような細かな差異を気にしても仕方がありません。大勢としてクレープの価格がどのように動いているのかを知るためには、ばらつきのある価格の平均をとればよいのです。 それが、ここでのクレープの価格です。経済には一物一価の法則が働いており、価格のばらつきはそんなに出ないものです。 高い値段のクレープ屋と安い値段のクレープ屋があれば、客は安い値段のほうに行ってしまうので、いつまでも高い価格をつけているわけにはいきません。 このような調整を通じて、価格のばらつきはある程度解消していくものです (一物一価の法則については、第4章で説明します)。 また、均衡価格のもとであっても、買えない人がいる一方で、売れ残りを抱 える店があるでしょう。しかし、ここでの関心事はそのような個々の消費者や店の動向ではなく、東京全体として見たときのクレープの価格の動向です。 したがって、東京全体で見たときの需要と供給がバランスしている状態を均衡と呼んで分析してかまわないと思います。 ところで、「だれが価格をつけるのか」という問題は、 ミクロ経済学できわめて重要な問題です。 現実の経済においては、 クレープの価格はそれぞれの店がつけます。 しかし、ここでの関心事は、個々の店の価格がどのように設定されるかということではありません。 東京という大きなマーケット全体で見て、クレープの価格がどうなるかということです。 個々の店の価格と、 マーケット全体の平均的な価格との間には、 決定的な差があります。 クレープのように多数の売り手がいて、品質もほぼ均一な商品では、他の店や屋台より極端に高い価格をつけることはできません。 客を取られてしまうからです。 個々の店は「マーケットで決まっている」 価格に縛られ、それとあまりかけ離れた価格をつけることはできないのです。もちろん意地を張って、高い価格をつけて細々と商売をつづけていく人がいるかもしれませんが、マーケット全体に関心があるわれわれにとって、 それは 「異常値」 (例外)であり、無視してかまわないのです。このように需要と供給の一致という力に制約を受けて、 個々の供給者の思惑とは別のところで価格が決まってくるメカニズムを分析するため、 完全競争(perfect competition)という考え方を用います。図1-1に描いた需要供給曲線の交点で価格が決まるという考え方は、多数の供給者と需要者のもとでの価格の決定と需給のバランスを単純化して表わしたものなのです。 白菜の価格はなぜ大きく変動するのか上で説明した需要供給曲線による分析は、さまざまに利用することができ ます。本書でも、いろいろな問題に関して需要供給分析を用いますが、以下で一つの代表的な分析例を説明しましょう。 白菜やレタスなどの野菜の価格は、大きく変動することが知られています。 収穫が前年の半分になったため、白菜の価格が数倍も上がってしまったということもあります。なぜ、白菜の価格は大きく変動するのでしょう。 図1-2は、これを説明するためのものです。 需要曲線の傾きがきわめて急であること、供給曲線が垂直線であることに注目してください。 これが、ここでの議論のポイントです。 供給曲線が垂直線になっているのは、 つぎのような理由のためです。 通常の供給曲線が右上がりになっているのは、価格が高くなれば供給が増えるというメカニズムが組み込まれているからです。 白菜にしても、そのようなメカニズムがないわけではありません。 白菜の値段が高くなっていけば、他の作物から白菜に切り替える農家が増えるかもしれないからです。しかし、そのような供給の調整には時間がかかります。 ここでのわれわれの関心の対象は、天候などによる白菜の収穫の変化が価格に及ぼす影響です。 白菜は今日種をまけば明日収穫できるというものではありません。したがって、ここではとりあえず供給量は価格によっては変化しないもの、つまり供給曲線は垂直線であると考えます。さて、この図では、 S線が前年の白菜の収穫 (供給) を、S2線が今年の白菜の収穫を表わしています。天候不順のため、今年の収穫は前年の半分になっています。 曲線D は、日本全体の白菜に対する需要曲線を表わしています(需要については、年によって大きな変動はないと考えます)。すると、前年の均衡点はE、今年の均衡点はFとなり、白菜の価格は10倍になっています。このように、価格が大きく変動する原因は、需要曲線の傾きにあります。需要曲線の傾きが急であるため、 供給量が減少すれば価格は大幅に上昇するのです。参考までに、図1-2には破線で傾きのなだらかな需要曲線を描いてあります。 こちらの需要曲線では、収穫が変動しても価格は大きく変化しないことがわかります。白菜の需要曲線はなぜ傾きが急になるのでしょうか。 傾きが急であるということは、価格が下がっても需要は少ししか増加しないし、価格が上がっても需要は少ししか減少しないということです。 つまり、 需要が価格にあまり反応しないのです。このような需要曲線を、価格に対して非弾力的な需要曲線といいます 日本人にとって、鍋料理 (鳥の水炊き、蠣の土手鍋など)は、冬には欠かせないものです。しかも、白菜の入らない鍋など考えられません。 白菜の価格が多少高くなっても、白菜への需要はあまり減らないでしょう。 これが、白菜の需要曲線の傾きを急にしている原因なのかもしれません。理由はともあれ、白菜の需要曲線の傾きが急であれば、つぎのようなことが起こります。天候の不順によって、白菜の供給が減少しても、それに見合った需要の低下をもたらすためには、価格が相当に上がらなければならない。 日本人に前年の半分の白菜の消費でがまんしてもらうためには、それだけ白菜の価格が高くならなければならないのです。 豊作貧乏 ところで、ここで説明したことは、 「豊作貧乏」と呼ばれる現象と基本的には同じものです。 図1-2で、前年と今年を比べると、農家全体の白菜の収入は、不作であった今年のほうが、豊作であった前年より、はるかに高くなっていることがわかります。 1億個とれた前年の収入は30億円、5000万個しかとれなかった今年の収入は150億円となっています。農家の収入は、価格に収穫量をかけたものです。 豊作貧乏とは、とれすぎると価格が大幅に下がって、収益が下がってしまう現象です。 需要が価格に対してあまり反応しない財の場合には、このような現象がみられます。 では、どのような財の場合には、需要が価格にあまり反応せず、需要曲線の 傾きが急になるのでしょうか。 すぐに思いつくのは、米などのような必需品です。米がいくら安くなったからといって、そうたくさん食べられるものでもありません。 また、値段が高くなっても、 米なしで生活することはむずかしいので、米の需要はそれほどは落ちないでしょう。 このように必需性の強い商品の需要は、価格変化にあまり反応しません。 上の例の白菜も、 必需品的な性格を持っているのかもしれません。発展途上国の輸出品には、 農林水産物や鉱物資源のような一次産品が多く、これらの商品の需要は価格変化にあまり大きな影響を受けません。 また、農林水産物は、その収穫に大きな変動があります。 したがって、 白菜の例と同じように、発展途上国の輸出品の価格は大きく変動する傾向があります。 この価格変動が途上国の輸出収入を不安定にし、 経済発展の阻害要因になるともいわれています。白菜のケースをデータで見ると需要曲線や供給曲線は、経済学者が勝手に考え出したもので、現実に眼に見えるものではありません。 しかし、実際の価格や需要供給の動向を見ることで、需要曲線や供給曲線の形状について想像することはできます。 この点について、白菜の例を使って説明してみましょう。 図 1-3 は、 ここ10年間の白菜の収穫量と白菜の価格の動きをとったものです(この数字は仮想のものです)。グラフ上の個々の点は、特定の年の白菜の価格と収穫量を表わしています。収穫の少なかった年には、 白菜の価格が高くなっていることが読み取れます。 さて、勘のいい読者なら、図に書き入れてある赤い線が白菜の需要曲線を表わしたものであることに気づいたと思います。かりに、白菜の需要曲線はあまり変化せず、供給のほうだけ天候の変動などによって動くとするなら、結果的にデータに出てくる価格と収穫量の組み合わせは、 需要曲線上の点を拾っているはずです(実際には、景気の変動など需要を動かす要因もあるので、需要曲線も多少はシフトします。 したがって、 個々の点は完全に一つの需要曲線上にのっているわけではありません)。 図1-3に記入してある3本の垂直線は, 2001, 2004, 2007年の白菜の収穫 を示した供給曲線です。 需要曲線の位置に変化がないとするなら、この三つの年の価格は、これらの供給曲線と需要曲線の交点となっているはずです。したがって、三つの年の価格と収穫を表わした点は、需要曲線上にのっているということになります。 このように考えると、グラフ上にとった点をつなげていけば、需要曲線を描 くことが可能になります。 図1-3にも、そのようにして描いた需要曲線が引いてあります。このように、データをもとにして需要曲線や供給曲線を描くことは現実の経済問題を分析するさいには役に立ちます。 計量経済学という分野では、そのための手法がいろいろと開発されています。 ここの例では、需要曲線が変化しないで、 供給曲線が大きく変化するという特殊な状況を考えているので話は簡単ですが、 現実の問題で需要曲線や供給曲線を導出しようとすると、いろいろとやっかいな問題が発生します。 Ⅱ 需要供給分析の応用 鉄道の開設と地価 地価上昇は宅地供給を促すか 白菜の例は供給が変化したときの価格の動きを示したものですが、つぎに需要が変化したときの価格の動きについて、興味深い例をあげてみましょう。 ここでは、大都市近郊のベッドタウンの地価を例にとりあげます。 いま大都市へ通じる新たな鉄道が開設されたとします。 通勤が便利になった沿線の地価はどのようになるでしょう。 常識的に考えて、地価は上昇すると予想されます。 沿線の街は通勤に便利になったので、 それだけ宅地への需要が高まり、価格が上昇するというわけです。 図1-4 は、 このような状況を需要曲線と供給曲線を用いて分析したものです。縦軸には宅地の価格、横軸には宅地の需要量と供給量がとられています。 通勤新線ができる前の需要曲線はD1、 通勤新線ができた後の需要曲線はD2 で表わされています。 つまり、 通勤新線の開通で、 この街の宅地需要は拡大しているのです。 さて、 図1-4にあるように需要が拡大すると、需給を均衡させる点は、図の点Eから点Fに移動します。 つまり、地価は上昇します。 これを図上の動きに沿って説明するなら、宅地への需要の拡大によって、需要と供給のアンバランスが生じます。 それが地価を引き上げ、そのような地価の引き上げによって宅地供給は供給曲線に沿って点Eから点Fまで増加するのです。 では、通勤新線によって宅地需要が拡大したとき、地価はどの程度上昇するのでしょうか。 図1-4には二つの図が描いてありますが、二つの図の違いは宅地供給曲線Sの傾きの違いにあります。 この二つの図を比べるとわかるように、同じように宅地への需要が拡大しても、ケースのほうが右側のケース2より地価の上昇の程度が大きくなっています。 ケース1では、宅地の供給曲線の傾きが急になっています。 これは、地主のつぎのような行動パターンを表わしています。 供給曲線の傾きが急になっているということは、 地価が上昇しても宅地の供給はあまり増えないということです。 したがって、 通勤新線の開通によって宅地需要が拡大しても、いたずらに地価ばかり上昇するだけで、宅地 供給は増えません。 つまり、 地主が土地の売り惜しみをしているのです。 これに対してケース 2 では、わずかな地価の上昇に対しても、宅地供給は大幅に増加します。 この場合には、 通勤新線が開通しても地価はそれほど上昇しなくてすみます。 このように供給曲線の形状によっては、地価の上昇の程度は大きく違ってきます。 図 1-4 では、通勤新線の開通によって、 地価が上昇しただけでなく、 宅地の供給も増加しました。 しかし地価上昇は、このように必ず宅地の増加を促すものとは限りません。 図1-5 は、 地価上昇が宅地供給をかえって減少させるような状況を描いたものです。 この図の場合も、通勤新線によって宅地に対する需要が拡大しますが、その結果、宅地供給はかえって減少していることがわかります。 このようなことが起こるのは、供給曲線Sが右下がり (左上がり) になっているからです。 地主が本当に土地を売り惜しんだら、 地価ばかり上昇して、宅地供給はかえって減少するということもありえます。 消費税はだれが負担するのか 消費税率の引き上げは、つねに大きな論争を引き起こします。国民がいちばん関心を持つのは、消費税によって価格がどれだけ上がるのか、ということです。需要供給曲線を使えば、消費税が価格にどのようにはねかえってくるのかという点について、 簡単に分析することができます。 図1-6を用いて、この点について説明してみましょう。 図1-6には二つの図がありますが、図1は消費税によって価格が大幅に引き上げられるケース (つまり税金が消費者価格に転嫁されるケース) を表わしており、図2は消費税がほとんど価格を引き上げないケース (つまり生産者が税金をほとんど負担するケース) を示しています。 どちらのケースでも、 曲線Dは需要曲線、 曲線 Sは税が課される前の供給曲線を表わしています。 消費税が課される前の均衡点は、この二つの曲線の交点(点E)で表わされますが、 図1、図2のどちらの場合も、均衡価格は1000円に、均衡需給量は Xになっています。 さて、ここで10%の消費税が課されると、需要と供給はどのように変化するでしょうか。消費税が課される場合には、消費者の支払う価格(これを消費者価格と呼びます)と生産者の受け取る価格(これを生産者価格と呼びます)を区別しなくてはなりません。 この二つの価格の差額が消費税として政府に支払われます。いま、 図1-6の縦軸には消費者価格がとってあるとします。 すると、消費税が課されても、需要曲線は変化しません。 消費者は自分の支払う価格に合わせて需要量を決めるので、価格のなかに消費税が入っているかどうかは直接需要に影響を及ぼさないのです。 これに対して、 消費税が10% 課されると、 供給曲線は 10% 分だけ上方にシフトします (青い色の実線 S' が10%の消費税のもとでの供給曲線を表わしています)。 なぜなら、 生産者は生産者価格を見て供給を決めるわけですから、10%の消費税が課されればその分消費者価格が上がらない限り、同じ量を供給しようとしないからです。 図でいえば、消費税がかかっていないときには、1000円という価格で供給曲線S上の点Eを選択していたわけですが、 10% の消費税のもとでは、供給者が同じ1000円の価格をつけていても、税金分10%が上乗せされ、1100円になってしまいます。 つまり、図の曲線S'上の点Fがもとの点Eに対応することになります。消費税が課されるとなぜ供給曲線が税金分だけ上方にシフトするのかという点について、あまりくわしく説明する紙幅がありません(この点については、第3章で説明します)。消費税が課された場合の均衡点は、 曲線と曲線 S' の交点Gとなります。 さて、二つのケースを比べると、図工のケースのほうが消費税の価格の転嫁 の程度が大きいことがわかります。 一般的に、 需要曲線の傾きが大きいほど、そして供給曲線の傾きが小さいほど、消費税のうち消費者価格に転嫁される割合は大きくなります。 これはつぎのような理由によります。 需要曲線の傾きが大きいということは、多少価格が上がっても需要がたいして減らないということです。つまり、需要が価格に対して非弾力的であるわけです。 一方、供給曲線が水平に近いということは、供給が価格に敏感に反応するということです。 つまり、少しでも価格が下がったら、 供給量が大幅に減少してしまうということです。 このような状況で消費税を課したとき、生産者価格が下がる余地はほとんどありません。 もしそうなれば、商品は供給されなくなるからです。 したがって、 消費者価格が上がることで、つまり消費税が消費者価格に転嫁されることで、調整されるわけです。これに対して、図2のように、需要は価格に対して弾力的で、供給は非弾力的である場合には、消費税の大半は生産者価格の引き下げで調整されるため、消費者価格にはほとんど転嫁されません。需要や供給が価格にどの程度弾力的であるかは、商品によって大きく異なります。したがって、同じように消費税が課されても、商品によって転嫁の率も異なることになります。 【用語解説】 超過供給→需要量よりも供給量が多い場合(需要量<供給量)の供給量の超過分のことをいう。 一物一価の法則→同じ市場で同じ時間に売られている同じ商品は、同じ価格で取引されるという経済学の原則。簡単に言うと、「同じ商品ならどこで買っても価格は同じになる」ということ。 非弾力的な需要→価格や所得の変化に対して、需要量がそれほど大きく変化しない状態 計量経済学→経済や社会の実態を統計学の方法で明らかにしていく学問 豊作貧乏→豊作により作物の供給量が増え、それによる価格下落で農家の利益が減ること 消費税→商品の販売やサービスの提供に対してかかる税金。令和元年(2019年)10月に10%(国7.8%、地方2.2%)へ引き上げられた。その際、「軽減税率制度」が導入されている。 他の税とは異なり、世代や就労の状況に関わらず、幅広い国民が負担している。また、(財務省曰く)経済活動に対する影響が相対的に小さく、税収が景気や人口構成の変化に左右されにくいといった特徴がある。 ※ 消費税の税収(国税分)は、令和6年度予算で23.8兆円 【議論点】 Q1 今年7月に控えた参議院選挙では、『消費税減税』が争点とされる見込みとなっているが、そもそも消費税は必要なのだろうか? Q2 今回の内容にも出てきた「豊作貧乏」は未だに日本では社会問題となっているが、どのような打開策が必要なのだろうか? 参考文献 日本経済新聞「『一物一価』 同じ商品は最終的に一つの価格に」 https://www.nikkei.com/article/ 金沢大学HP 「よく分かる金融用語辞典」 https://www.findai.com/yogow/w00138.html 大阪学院大学 「市場分析について」 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.osaka-gu.ac.jp/php/satoma/2013/E05/0527-morikawa03.pdf 大阪学院大学 「弾力性について」 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.osaka-gu.ac.jp/php/satoma/2012/Mr.Ueda-05-29.pdf ダイナミックフライジングテクノロジー公式HP https://dev.dynamic-pricing.tech/post/elasticity-economics 慶應義塾大学商学部 「計量経済学とはなにか?」 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.fbc.keio.ac.jp/~tyabu/econometrics/econome1_1.pdf 財務省HP  https://www.mof.go 

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